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銀座松坂屋の地下2階にある無印良品には書籍コーナーがあります。
普通の無印は自社製品のみを取り扱っているけど、書籍は勿論無印の出版物ではなくて「無印らしい」書籍を集めた、いわばセレクトショップ。

この本はそこで見つけた一冊で、「無印っぽさ」の正体を知りたくて買ってみました。

この本がユニークなのは一般的な企業研究本ではなく、無印(良品計画)の企業理念の源流にある思想的背景を、日本の消費者の意識変容との関係性において分析することにフォーカスしているところです。従って、無印のマーケティング戦略や具体的な施策にはほとんど触れられてはいません。

 思想としての「無印良品」- 時代と消費と日本と-

本書は無印の成功を支える思想的背景を、無名性/匿名性、両義性/多義性、またコンテクストに基づく世界観といった観点から分析を試みていますが、私個人(サービス設計者)の視点からみて興味深かったのはそのブランド構造です。以下、簡単にそのあたりを要約します。

無印は、西友のプライベートブランド(PB)として生まれたが、他社のPBとの最も大きな違いは、単純に流通の合理化脱ブランドによる「コスト削減による安さ」を追求するだけではなく、「わけあって安い」をスローガンとして掲げるように「わけ(=理由)」への強いこだわりであった。

初期の無印の主な成功要因は、品質を犠牲にせず、なぜ安いのかという理由をパッケージに明示することで「賢い消費者」へのアピールに成功したことである。(当時は食料品を中心に展開していたので、コストと品質のバランスに敏感な主婦層が「賢い消費者」である。)その際、商品パッケージとしてデザインとメッセージ性に優れたシンプルなパッケージングにこだわったことが無印のその後の展開の鍵を握ることとなる。

無印は、食料品に留まらず、衣料品、日用雑貨、そして家具にまで商品展開を進めるにあたり、PBとしての出自に因る脱ブランド性を反ブランドという思想的なレベルにまで押し進め、その思想を体現するデザイン戦略から、熱狂的な無印のファン層を獲得するに至る。すなわち、無印を選ぶというライフスタイルが、「賢い消費者」であるということをアピールするものとなったのだ。

ここで面白いのは、反ブランドを掲げた無印自身が、皮肉なことに、新たなブランドとなったということだ。

著者はこの一見矛盾する状況を、経済資本文化資本という異なる評価軸により分析している。一般的なブランドは経済資本に基づくもの、つまり経済的な豊かさを誇示するための道具であるが、無印のもつブランド性とは、文化資本に基づくもの、つまり教養の高さを顕示するための道具であると見ることができると示唆している。

いまやどの分野をとっても競合がひしめくWebサービス業界。機能での差別化がますます困難になってゆくと、やはりブランド化を考える必要が出てきます。

無印と同様に文化資本に基づくブランドを持つ企業としては、Appleがあげられます。Appleのブランド力は、単にデザインの良さにあるのではなく、その背景にある強固な設計思想とそれを体現するデザインのコンビネーションにあり、ユーザのライフスタイルと深く結びついていることは説明の必要もないでしょう。

無印やAppleを支える文化資本によるブランド化は、経済資本に基づく高級消費材のブランド化とは異なり、Webサービスにも適用できるはずです。

ブランド力を持ちうるWebサービスとは、ユーザのライフスタイルに影響を与えることができる明確な設計思想をもち、それがUI/UXを通じて表現されているものではないかと考えています。